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公開日:2023.12.6
特殊なターゲット層についてリサーチするには、リサーチ方法にも工夫が必要です。一般的な手法では対応が難しい層へのリサーチ手法の例を5つ紹介します。市場調査や顧客ニーズを把握する上の知識としてぜひ役立ててください。
商品・サービスを企画するにあたり、欠かせないプロセスの1つに市場調査が挙げられます。市場調査で顧客ニーズを把握し、ニーズに即した企画を立案する必要に迫られるケースは少なくありません。一方で、商品・サービスの特性によっては一般的な手法でリサーチを進めるのが困難なケースもあるはずです。
今回は、特殊なターゲット層をリサーチする際に有効な手法5選を紹介します。それぞれの調査方法やメリット、活用例を見ていきましょう。
【 目次 】
リサーチしたい対象者の属性がごく限られた範囲に集中している場合、マス(大衆・個別化されない不特定多数の人々)を対象としたリサーチ手法では正確な調査結果を得るのは困難な場合があります。一例として、次に挙げるような属性のターゲット層が想定できるでしょう。
上記に該当する層は生活者の中でも限られていることから、ターゲットに適したリサーチの手法を検討する必要があります。
エクストリームユーザーとは、商品やサービスを提供する企業側の想定を超える極端な使い方をするユーザーのことです。商品やサービスを使用する頻度や使い方、利用するシーンなどが一般的なユーザーと乖離している例として、以下の例が挙げられます。
こうした層のニーズを把握するにあたって、一般的なユーザーを対象としたリサーチ結果があまり参考にならない可能性があります。
他人にあまり公言することのないデリケートな問題に関するニーズは、リサーチを進めにくい可能性があります。たとえば、以下のようなケースが該当するでしょう。
こうしたセンシティブな情報は本人が積極的に公表したがらない可能性が高いことから、一般的なリサーチ方法と比べるとさまざまな配慮が求められます。プライバシーに関わる情報は守られることを信用してもらえるよう、通常とは異なる方法でリサーチを進める必要があるのです。
特殊なターゲット層へのリサーチ手法として1つ目に挙げられるのが「訪問観察調査」です。調査方法、手法のメリット、実際の活用例について見ていきましょう。
訪問観察調査とは、調査員が調査対象者の自宅を訪問して対象者を観察したり、ヒアリングを行ったりする手法のことです。調査員が対象者に直接ヒアリングを実施し、聞き取った内容を調査票に記載する「面接調査」と、調査票を手渡しして後日回収する「留め置き調査」の2パターンがあります。調査票を対象者に記入してもらう手法には他に郵送調査がありますが、訪問観察調査では調査票を郵送するのではなく、調査員が直接訪問する点が大きな違いです。
訪問観察調査では調査員が対象者の自宅を直接訪問するため、郵送調査などの手法と比べて回収率が高い点が大きなメリットです。有効な回答を得られる可能性が高く、回答に不備があればその場で確認できる調査方法といえます。
また、対象者の日常的な生活空間で調査を進められることから、商品・サービスが実際にどのように使われているのかを間近で確認できます。回答者自身も気づいていない行動や、商品・サービスの意外な使い方を発見できるケースも少なくありません。
主に家庭内で使用されることが多い製品などは、訪問観察調査が有効なケースが多いと考えられます。たとえば、生活家電がどう使われているのかを把握したい場合や、生活習慣も含めて調査したい場合には、自宅を訪問する意義は大きいといえるでしょう。
店頭でのアンケート調査やインターネット調査でも、商品・サービスの使い方を回答してもらうことはできます。ただし、回答者自身が無意識に行っている習慣や動作については、回答に現れていない可能性も否定できません。こうした見落としがちなポイントを、調査員の目で直接確認できるリサーチ手法といえます。
次に、ホームユーステストについて紹介します。前述の訪問観察調査との違いや、具体的なメリットについて押さえておきましょう。
ホームユーステストとは、新製品や改良品などを調査対象者の自宅に送付し、一定期間試用してもらい感想を取得する調査方法です。対象者は普段の生活環境の中で製品を使用することになるため、実生活に即した消費者ニーズを把握できます。
前述の訪問観察調査では調査員が直接自宅を訪問しますが、ホームユーステストでは製品などを郵送する方法が一般的です。調査員が現地に滞在する必要がないため、長期間にわたる調査にも対応できます。
実生活の中で新製品や改良品を試用してもらうことにより、日常利用に近い視点から評価を得られます。店頭やアンケート会場などで商品を手に取ったとしても、実際に操作したり試用したりできる時間は限られてしまうでしょう。より生活者の視点に立ったリアルな感想を取得しやすい点がホームユーステストのメリットです。
また、一定期間試用してもらうことにより、継続利用した場合の心境の変化なども含めて調査できます。初めて手に取った時の印象と、一定期間使ってみた印象が変わることも想定されるため、より詳細な消費者の意見を集められるでしょう。
ホームユーステストは新製品や試作品の改善点を探りたい場合や、既存商品の課題を抽出したい場合などに適しています。テスト品の使用状況を画像や動画でアップロードしてもらうこともできるため、一般的なアンケート調査などと比べて具体性のある調査結果を取得可能です。
ただし、商品によっては試用・試食・試飲の方法を管理統一する必要があることも想定されます。条件によって調査対象者の印象や使い勝手などが大きく変わる商品については、適した調査方法とはいえないでしょう。
インタビューによる調査は広く活用されている手法ですが、その中でも特殊なターゲット層の調査に有効な手法として「デプスインタビュー」が挙げられます。具体的な調査方法やメリット、活用例は次の通りです。
デプスインタビューとは、1対1のインタビュー形式による調査の手法です。調査員と対象者の会話を通して情報を取得していくのが大きな特徴で、商品・サービスの利用実態や購入理由、行動の背景などを深く掘り下げられます。
一般的なインタビュー調査は、あらかじめ決められた質問項目に沿って行われるケースがほとんどです。一方、デプスインタビューは回答をその場で深掘りできるため、対象者ごとに重点を置く質問が変わるケースも少なくありません。
デプスインタビューは対象者とじっくり話しながら調査を進めるため、対象者の意識や行動、心理について詳細な情報を得られます。たとえば、購入理由について聞く際には、購入時点で他にどのようなことに興味があったのか、商品を購入する直前に誰と相談したのかなど、個人的な感情も含めた詳細なヒアリングが可能です。
また、調査会場の機密性が保たれていれば、センシティブなテーマを扱う調査にも対応できます。個人的な事情にも踏み込んだ調査ができることは、デプスインタビューだからこそ実現可能なメリットといえるでしょう。
対象者自身の言葉で回答してもらうことにより、生活者のインサイトを深掘りしたい場合に適した調査方法といえます。実際、購入に至った経緯には意外な要素が潜んでいるケースも少なくありません。たとえば、キャンプ用品を購入した消費者は初めからキャンプをしたかったのではなく、本当は海外旅行をしたかったのかもしれません。時間や予算の都合上、近場で非日常の雰囲気を味わう手段としてキャンプ用品を購入するといった状況も想定できます。
こうした消費者の本音は、一般的なアンケートやインタビュー調査では引き出せないことも十分にあり得ます。1対1でじっくり聞き取るからこそ、本音を話してもらえる場合もあるのです。
商材によっては、心理実験や官能試験といった手法が有効な場合もあります。実際の調査方法や実施するメリット、活用例について見ていきましょう。
心理実験とは、特定の環境下で対象者が示す心理反応や知覚・認知などの傾向をデータで取得する調査手法です。官能試験とは、食料や食品の味覚調査のほか、環境・属性を組み合わせた実験のことを指します。
味覚や視覚といった人の感覚に関することは、言葉で表現するのが難しいケースが多々あります。アンケート調査などで「好き」「嫌い」を尋ねることはできても、微妙な味の違いや見え方の違いについて聞き取るのは容易ではありません。心理実験や官能調査は、こうした調査の課題を解決する手段として有効です。
心理実験や官能試験の大きなメリットとして、感情の動きや反応を定量化することにより、客観的に分析しやすくなる点が挙げられます。味や匂い、食感の微妙な違いを言葉で聞き取るよりも、分析に活用しやすいデータが取得できるのです。
たとえば、ある商品のパッケージAとパッケージBのうち、パッケージAを選ぶ人が多かったとします。パッケージAを選んだ要因が色にあるのか、文字の大きさ・位置などのデザイン要素にあるのか、明確に判別できないケースもあるでしょう。要素ごとに心理実験を行うことにより、多くの人が無意識に好感を抱き、手に取るパッケージの特徴をつかみやすくなるのです。
心理実験・官能実験は、人の感覚が深く関わる対象物を調査する際に有効です。飲食物の味をどう感じるのか、どのようなパッケージデザインが直感的に選ばれやすいかなど、味覚・視覚・触覚などを調査するのに適しています。
事前に実施した市場調査の結果から「甘すぎる飲料よりも甘さを抑えた飲料のほうが好まれる」と判明していたとしても、試作品への反応が大きく異なる場合もあります。消費者の反応を確認しておくことで、より実態に合わせた商品開発が可能になるでしょう。
最後に紹介するのは「生体データ調査」です。さまざまなテクノロジーを活用した調査方法として注目されつつある生体データ調査とは、どのような手法なのでしょうか。
生体データ調査に活用されるテクノロジーはさまざまです。MRIや視線行動(アイトラッキング)検知、DS(ドライビングシミュレータ)といった手法のほか、表情解析や脳波測定といった手法が用いられることもあります。
いずれの手法も、被験者自身が意識していない生体反応のデータを取得するため、言語を介することなく調査結果を得られます。一方で、生体反応を取得することへの倫理的な問題や取得したデータの管理方法など、留意すべき課題も少なくありません。
生体データ調査によって、言語化が困難な領域のデータも調査対象にできます。生活者の無意識レベルの反応を確認できることは、他の調査手法にはないメリットといえるでしょう。
たとえば、テレビCMを目にした際に視聴者がどの要素に強い反応を示しているのかは、外見や本人の感じ方では説明がつかない場合があります。表情や視線の微妙な変化や脳波によって測定することで、どのタイミングで音や映像に注意を向けたのか客観的なデータを得られるのです。
言語を介さない生体データ調査には、幅広い活用方法が想定されます。たとえば、広告を見た際にどの部分にまず注目する人が多いのか、どのような順序で広告を確認していくのか、アイトラッキングを活用することにより高精度な分析が可能です。
あるいは、生活者の多くが心地よいと感じる音色や音量などの傾向を把握する際にも、主観に頼ることなく調査を進められます。生体データ調査によって従来は取得できなかった領域のデータが取得可能となり、生活者の嗜好やものの感じ方をいっそう詳しく分析可能となりました。
ライター:株式会社ネオマーケティング