COLUMN
公開日:2023.05.31
更新日:2025.02.19
リスキリングとは、必要とされるスキルの大幅な変化に適応するためにスキルを獲得することを指します。近年リスキリングが必要とされている背景や、他の用語との違い、リスキリングに取り組むメリットについてまとめました。リスキリングの進め方や効果を高めるポイントを事例とあわせて紹介します。
近年、社会人の学び直しが注目を集めています。そのうちの1つが「リスキリング」です。政府は2025年度の予算案のうち、リスキリングに向けた支援に必要な予算として78億円を計上 しました。今後、社会人の学び直しがいっそう一般的なものとなり、企業による支援の取り組みも求められていくことが想定されます。
この記事では、リスキリングが必要とされている背景や他の用語との違い、リスキリングに取り組むことで企業・従業員がそれぞれ得られるメリットについて解説しています。リスキリングの進め方や効果を高めるポイント、導入事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
【 目次 】
リスキリング(Re-skilling)は、「スキルの再習得」を表す言葉です。経済産業省では、リスキリングを次のように定義しています。
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」
(出典:経済産業省「リスキリングとは ―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」 2021年2月26日)
既存のスキルを向上させる「スキルアップ」だけでなく、新たなスキルの体得を見据えている点が大きな特徴です。
そもそもリスキリングはなぜ必要と考えられているのでしょうか。主な背景として、次の4点が挙げられます。
近年、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が注目されています。DXとは、デジタル技術を活用することで業務効率を向上させたり、より良質なサービスの提供を目指したりすることを通じて組織に変革をもたらすという概念です。
DXの一環として昨今取り沙汰されているのが、AI(人工知能)の活用です。生成AIをはじめとするAIのテクノロジーを業務に活用することで、従来の働き方やビジネスモデルに大幅な変革がもたらされる可能性があります。
一方で、AIの台頭は技術的失業への懸念ももたらしているといわれています。従来は人間が行っていた仕事を、AIが代替できる時代が到来する可能性があるからです。こうした急速なテクノロジーの変化に適応し、そのメリットや利便性を最大限に引き出していくためにも、新たな知識やスキルの体得が欠かせません。
働き方の多様化が進んでいることも、リスキリングが求められる大きな要因の1つです。リモートワークや時差出勤といった多様なワークスタイルが定着しつつある中、物理的・時間的に隔たりのあるメンバーとも円滑にコミュニケーションを図り、情報を共有していかなくてはなりません。ITツールを適切に使いこなすことは、現代のビジネス環境において不可欠な資質といっても過言ではないでしょう。
こうした動きが加速した要因として、新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられます。コロナ禍における外出自粛や在宅勤務の経験が、働き方の多様化に拍車をかけました。ITリテラシーの向上が現実的な課題であることを、多くの人が実感した時期だったともいわれています。実際、2024年1月時点においても従業員1,001名以上の企業のうち、約3割がテレワークを実施しています 。
新規事業の創出がますます求められていることも、リスキリングが必要とされる大きな要因の1つです。新たなビジネスモデルを考案し、着実に実行していくには既存のスキルや業務知識では十分とはいえない可能性があります。一方で、労働人口が減少へと転じた今、外部から人材を採用するのは容易なことではありません。既存の人員で新規事業を創出し、イノベーションを加速させていく重要性が増しています。
特に近年は、異業種への進出が顕著になりつつあります。メガバンクが金融以外の事業を手がけたり、メーカーが新サービスを提供したりするケースもめずらしくありません。このように新たな分野での活路を見出していくためにも、従来とは異なるスキルの体得が求められているのが実情です。
国内外でリスキリングに関する提言がなされたことも、リスキリングが重要視されている理由の1つです。一例として、2020年のダボス会議においては、2030年までに全世界10億人のリスキリングが提唱されました。また、国内においても経団連が2020年11月に新成長戦略を公表し、この中でリスキリングの重要性について言及しています。
人の寿命は延びており、テクノロジーの進歩や社会の変化は速度を増しています。私たちが一生のうちに直面する変化の度合いが大きくなっている以上、リスキリング(=技術の再習得)が注目されるのは必然の流れといえるでしょう。
リスキリングを大枠で捉えると、いわゆる「学び直し」の一環といえます。社会人の学び直しは、リスキリングだけではありません。リカレント教育やアンラーニング、生涯教育とリスキリングの違いを整理しておきましょう。
リカレント教育とは、社会人が必要なタイミングで教育を受け、再び仕事に復帰する取り組みを繰り返すことを指します。業務をこなしつつ学び直しに取り組むのではなく、大学や大学院といった外部の教育機関にて一定期間勉学に集中する点が大きな特徴です。
これに対して、リスキリングは現在の職場において仕事を続けながら取り組む学び直しのことを指しています。リカレント教育が個人の学び直しに重きを置いているのに対して、リスキリングは企業が戦略的に従業員のスキル体得を図る取り組みを指している点が大きな違いです。
アンラーニングは「学習棄却」と訳されます。これまでに体得してきた知識やスキルを意図的に棄却し、新たな知識やスキルの体得を目指すための準備に当たる取り組みです。とくに変化が激しい現代においては、既存の知識やスキルに縛られることなく、新たな視点で物事を捉える重要性が高まっています。先入観に囚われないための考え方がアンラーニングといえるでしょう。
リスキリングは新たな知識・スキルの体得を目指す点において、アンラーニングとは真逆の取り組みのように見えます。しかし、既存の知見に惑わされず新しい知識・スキルを体得していくためには、アンラーニングが重要なプロセスとなるケースも少なくありません。
生涯学習とは、その名のとおり生涯を通じて学び続けていく取り組みやスタンスのことを指しています。文部科学省が提言している生涯学習の定義は次のとおりです。
「一般には人々が生涯に行うあらゆる学習,すなわち,学校教育,家庭教育,社会教育,文化活動,スポーツ活動,レクリエーション活動,ボランティア活動,企業内教育,趣味など様々な場や機会において行う学習」
(出典:文部科学省「平成30年度文部科学白書」)
つまり、生涯学習は仕事に限らず人生をより豊かにするための個人的な学び全般を指しています。これに対して、リスキリングは業務に必要なスキルの習得を志向している点が大きな違いです。
企業がリスキリングを導入し、従業員に技術の再習得を促すことによって具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。企業側から見た場合の主なメリットとして、次の5点が挙げられます。
国内人口が減少に転じたことに伴い、労働人口の縮小が加速することは確実となりました。とくにデジタル人材の不足は深刻化しており、2019年の時点で89%もの企業からIT人材が足りていないとの回答が寄せられているのが実情です*。人材不足への対応は、あらゆる業界において急務といえるでしょう。
リスキリングを通じて従業員のスキルアップを図ることは、こうした問題の抜本的な対策となるはずです。外部から人材を採用するのにも限度がある以上、現在在籍している従業員の成長を促していくことは、人材不足への有効な対策の1つといえます。
*総務省「令和3年 情報通信白書 」より
リスキリングを通じて従業員に学びの機会を提供することは、従業員エンゲージメントの向上につながる可能性があります。従業員のキャリア形成を企業が率先してサポートしていることが伝われば、従業員は自社への愛着や信頼をいっそう深めていくはずです。
従業員エンゲージメントが、生産性や業績と深く関わっていることはすでに知られています。リスキリングを通じてスキルの向上につながるだけでなく、従業員エンゲージメントの向上にも資することは、リスキリングに取り組むメリットといえるでしょう。
リスキリングの導入は、自律型人材を育成するきっかけにもなり得ます。新たなスキルを習得し、実務を通じてその効果を実感する従業員が増えるにつれて、スキル習得に対する肯定的な意識が醸成されていくでしょう。主体的に学び、自ら思考できる人材が増えていくことで、組織全体も活性化していくはずです。
リスキリングは一過性のものではなく、継続することが求められる取り組みです。企業がリスキリングを呼びかけることによって、継続的な学びのきっかけ作りとなるでしょう。リスキリング導入の先には、自律型人材の育成というより大きな目的があるのです。
すでに自社の業務に精通した人材を有効活用できることも、リスキリングに取り組むメリットといえます。今後必要とされるスキルを保有する人材を新たに雇うことも、人材不足を補うための対策としてはあり得る選択肢の1つでしょう。しかし、新規採用者は自社の社風をはじめ既存業務に関する過去の経緯を把握していません。長い目で見たとき、既存業務を熟知した人材のスキルアップを図るほうが理に適っています。
リスキリングを通じて業務に精通した人材のスキルアップを図り、活躍の場をさらに広げていくことは、持続可能な事業を築くうえで重要な要素となるでしょう。
リスキリングは、DX人材の確保に向けた現実的な施策としても有望です。外部人材に依存することなく、自社でDX人材を育成していくことにより、将来的にDX推進を担える人材を確保できる可能性があります。
また、自社がDXを推進した際に環境の変化に適応できる人材を育てるという意味でも、リスキリングには大きな意義があるでしょう。このように、企業がリスキリングを導入することで今後必要とされるスキルを備えた人材を育てることにつながります。
リスキリングへの取り組みは、従業員にもさまざまなメリットをもたらします。具体的なメリットとして挙げられるのは、主に下記の3点です。
リスキリングを通じて新たなスキルを習得すれば、転職や副業以外の手段で新しいことに挑戦できます。これまでの経験を活かしつつ、現在の職場で仕事の幅を広げられる点は、従業員にとってのメリットといえるでしょう。
転職や副業には少なからずリスクや負担が伴います。新しいことに挑戦したい気持ちはあるものの、こうしたリスクや負担を懸念して踏み出せない従業員も多いのではないでしょうか。現在の職場で新たな挑戦ができる環境が整えば、従来とは異なる分野で能力を発揮する従業員が現れる可能性は十分にあります。
リスキリングに取り組むにあたって、従業員は今後身につけていきたいスキルや、将来的なキャリアの希望について考えることになります。自身のキャリアを客観視する機会が得られることは、リスキリングに取り組むメリットの1つです。
従来、自身のキャリア観をあらためて整理するのは、転職や独立といった大きな節目に限られる傾向がありました。在職のままキャリアの幅を広げられるチャンスに巡り合うことで、キャリアの棚卸しをする機会がもたらされるでしょう。
リスキリングを通じて新たなスキルを体得すれば、現在とは別の部門や新規事業で活躍が見込めます。キャリアや働き方の選択肢を広げられることは、人生100年時代においてはとくに重要なポイントとなるでしょう。
たとえば、現状の担当業務ではテレワークや時差出勤が現実的に難しいことも想定されます。新たなスキルを身につけることで、こうした働き方が可能になるケースも少なくありません。希望する業務内容や働き方を実現するための手段として、リスキリングは効果を発揮する可能性があります。
リスキリングは漠然と取り組むだけでは十分な効果が得られません。次に挙げる進め方を踏まえつつ、目的意識をもって推進していくことが大切です。
リスキリングによって誰にどのようなスキルを身につけてもらうべきか、求めるスキルと対象者を決めておくことが大切です。自社にとって将来的に必要となるスキルは何か、事業計画や経営方針とも照らし合わせて見極める必要があります。
スキルと対象者が的確に定められていることは、従業員にとっても重要なポイントです。せっかくスキルを習得しても、実務との関わりが薄く身につけたスキルを発揮できないとすれば、学び続けようとする意欲を削いでしまうでしょう。求めるスキルと対象者を見極めることは、リスキリングに取り組むうえで非常に重要なポイントです。
リスキリングを進める学習テーマや学習方法、実施期間を明確にしましょう。学習に必要なコンテンツを自社で用意すべきか、外部の研修プログラム等を活用すべきか、求められる質や量をもとに判断する必要があります。
そもそも学習プログラムの策定は、リスキリングの本来の目的ではありません。コンテンツの準備に期間を費やしてしまい、スタートが遅れることのないよう注意しましょう。必要に応じて外部のリソースを活用しながら、無理なく実施できる体制を整えていくことが大切です。
リスキリングの実施中に課題となりやすいのが、従業員のモチベーション管理です。新たなスキルを習得することに抵抗がない従業員と、そうでない従業員との間で温度差が生じる可能性があります。
学習プログラムを提示したまま放置することのないよう、定期的なフォローを入れることが重要です。1on1や社員面談など、計画的なフォローを実施しましょう。従業員の自主性に委ねる部分と、企業側からフォローを入れる部分を使い分けていくことが求められます。とくにキャリア形成のように、企業側の関与が必要な事柄については、具体的な時期を決めてフォローを入れるようにしてください。
リスキリングはスキルアップのための手段のため、リスキリング自体が目的化しないよう注意しましょう。身につけた知識・スキルを実務で活用していくことが重要なポイントです。
学んだことが実務で活かされ、成果につながることが実感できれば、従業員がさらに自主的な学びに向かう確率が高まります。継続的な学びを促すためにも、リスキリングの内容と実務との関連性には十分に気を配りましょう。
リスキリングの効果を引き出すためには、いくつか押さえておきたいポイントがあります。リスキリングへの取り組みが従業員にとって負担やストレスの原因にならないよう、次の3点に留意することが重要です。
リスキリングを導入することで、従業員の負担が増すことのないよう配慮しましょう。必要に応じて業務時間内でのプログラム受講も視野に入れつつ、担当業務を圧迫することのないよう気を配る必要があります。
従業員の負担感は、観察しているだけではわからないケースも少なくありません。リスキリングの実施前に従業員へのヒアリングを行い、学習プログラムへの参加が現実的に可能かどうか確認しておくことをおすすめします。
また、リスキリングに取り組む従業員の同僚や上長に理解を得ることも重要なポイントです。とくにリスキリングに充てる時間を業務時間内に設ける場合は注意が必要です。従業員にとってリスキリングに取り組みやすい環境・体制を整えていきましょう。
リスキリングが失敗する原因の1つに、従業員が義務的に受講しているケースが挙げられます。新たなスキルを習得する際には少なからず負荷やストレスがかかるため、従業員自身が納得し、自ら学びたいという意識で臨まなければ良い結果は望めないでしょう。
リスキリングの実施前に1on1を行うなどして、従業員自身の希望や今後のキャリアに関する展望を聞いておくのが得策です。従業員の自主性を尊重することによって、リスキリングを「自分事」として捉えやすくなるはずです。
リスキリングを進めるにあたって必要な学習コンテンツや指導者は、必ずしも社内だけでまかなう必要はありません。すべてを一からそろえていくよりも、すでに用意されている外部のリソースを活用するほうが効率的です。
ただし、外部の学習プログラムが自社にとってリスキリングの趣旨に合っているか、求めているスキルが身につくものかどうかは、事前によく確認しておきましょう。従業員の知識量やレベルに合った講座が用意されているか、実践まで含めてフォローが受けられるかといった点を十分にチェックしたうえで活用していくことが大切です。
さまざまな業界のリスキリング導入事例を紹介します。リスキリングを導入したきっかけや、具体的な進め方を知る手がかりとしてぜひ役立ててください。
アメリカの大手通信会社では、2008年に従業員のスキルの実態を調査したところ、近い将来陳腐化していく可能性の高いスキルしか持ち合わせていない従業員が約半数を占めることが判明しました。そこで、2013年に従業員10万人を対象にリスキリングを取り入れることを決定したのです。
リスキリングに参加した従業員は参加していない従業員よりも昇進率が高く、退職率も低いことがわかりました。従業員のスキルの実態に合わせてリスキリングを実施した結果、求める効果が得られた事例といえるでしょう。
ある国内メーカーではグループ会社との協力のもと、従業員のキャリア形成支援を目的とした教育プログラムを構築しました。DX推進を担う人材の育成や、DXリテラシー向上のための研修を実施し、従業員ごとに適したコンテンツをAIが推奨する仕組みも導入。個々の課題に合わせたリスキリングを実現しています。
リスキリングは1社のみで解決できる課題とは限りません。グループ企業や提携企業と協力して取り組むことで、スケールメリットを得られるケースもあるのです。
従業員のITリテラシー向上に取り組んだ金融機関の事例では、IT関連の国家資格取得を視野に入れたDX教育を実施しました。国家資格の取得という明確な目標が定められているため、従業員としても学習の成果が見えやすく、取り組んだ効果を実感しやすくなった事例といえます。
リスキリングで学んだことを実務で活かすのは重要なポイントですが、従業員にとってすぐに効果を実感できるとは限りません。この事例のように、資格取得などの目標を定めるのも1つの方法といえるでしょう。
リスキリングで取り組む課題としてDX推進が注目されがちですが、ある飲料メーカーではデジタルとビジネスをつなぎ、価値に変換する人材の育成に注力しました。データサイエンスの基礎やAI・機械学習の活用といったテーマで学びつつ、視点は常に「学びをどう活かすか」に据えられている点が特徴です。
スキルを身につけること自体が目的化することのないよう、当初から学ぶ目的やゴールを明示しておくことは、リスキリングを導入する際の大切なポイントといえます。従業員が学ぶ目的を見失わないためにも、参考にしたい事例の1つです。
テクノロジーの進化や少子高齢化に伴い、多くの社会人にとって新たなスキルの体得は重要な課題となりつつあります。リスキリングが必要とされている背景を理解したうえで、経営戦略の1つとしてリスキリングの推進を掲げていくことが重要です。
リスキリングは企業・従業員の双方にとってメリットのある取り組みです。一方で、導入の仕方を誤ったり、環境整備が不十分な状態で始めたりすると、従業員が義務的に参加する結果に陥りかねません。従業員が自発的に取り組む面と、企業側が適切に関与してサポートする面を使い分けていく必要があるでしょう。
エイジェックグループでは事業戦略にもとづく目標設定にはじまり、従業員の職種やスキルに応じたタイプ別研修の実施、リスキリングを自分事として捉える環境の構築を実現する「DX人材育成プログラム」 をご用意しています。また、データ活用に欠かせないスキルセットである「データサイエンス力」や、「ビジネス力」が身につく講座を受講できる「データサイエンスビジネススクール」もあります。講座を通じてデータ活用の戦略設計力や、ビジネス課題を解決する分析力を身につけられます。自社に適したリスキリングの取り組みや具体的な学習プログラムの構築にお悩みの事業者様は、ぜひエイジェックグループにご相談ください。
ライター:株式会社ネオマーケティング