COLUMN
公開日:2023.05.31
リスキリングはなぜ必要なのか、導入するとどのようなメリットを得られるのか疑問に感じていませんか? この記事では、リスキリングの必要性や企業が導入するメリット、効果を高めるためのポイントを解説します。具体的な導入事例とあわせて見ていきましょう。
近年、リスキリングという言葉をよく聞くようになりました。自社においてもリスキリングを導入すべきか、迷っている事業者の方も多いのではないでしょうか。
今回は、リスキリングがなぜ重要なのか、取り組むメリットとあわせて紹介します。リスキリングの効果を高めるポイントや具体的な導入事例も挙げていますので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそもリスキリングはなぜ重要視されつつあるのでしょうか。主な背景として、次の3点が挙げられます。
近年、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が注目されています。DXとは、デジタル技術を活用することで業務効率を向上させたり、より良質なサービスの提供を目指したりすることを通じて組織に変革をもたらすという概念です。
DX推進に際して、課題になりやすいのがDX人材不足です。DXを的確に推進していくには、ITツールを使いこなせるだけでなく、どの課題に対してどのITツールが適切な解決策となり得るのかを把握していなければなりません。DX推進と人材育成は表裏一体の課題なのです。
リスキリングの重要性が顕在化したきっかけの1つに新型コロナウイルスの感染拡大があります。コロナ禍の外出自粛に伴い、テレワークや在宅勤務といった働き方の多様化が進みました。在宅勤務でも問題なく業務を遂行できる人とそうでない人を分けた要因の1つが、ITリテラシーだったともいわれています。
今後はジェネレーティブAIをはじめ、ITツールはさらに進化を遂げていくと考えられます。働き方のさらなる変化が予想される中、変化に対応できるリテラシーが求められるはずです。ワークスタイルの多様化は、リスキリングが重要視される一因といえるでしょう。
国内外でリスキリングに関する提言がなされたことも、リスキリングが重要視されている理由の1つです。一例として、2020年のダボス会議においては、2030年までに全世界10億人のリスキリングが提唱されました。また、国内においても経団連が2020年11月に新成長戦略を公表し、この中でリスキリングの重要性について言及しています。
人の寿命が延びている一方で、テクノロジーの進歩や社会の変化は速度を増しています。私たちが一生のうちに直面する変化の度合いが大きくなっている以上、リスキリング(=技術の再習得)が注目されるのは必然の流れといえるでしょう。
企業がリスキリングを導入し、従業員に技術の再習得を促すことによって具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。企業側から見た場合のメリットを確認しておきましょう。
国内人口が減少に転じたことに伴い、労働人口の縮小が加速することは確実となりました。とくにデジタル人材の不足は深刻化しており、2019年の時点で89%もの企業からIT人材が足りていないとの回答が寄せられているのが実情です*。人材不足への対応は、あらゆる業界において急務といえるでしょう。
リスキリングを通じて従業員のスキルアップを図ることは、こうした問題の抜本的な対策となるはずです。外部から人材を採用するのにも限度がある以上、現在在籍している従業員の成長を促していくことは、人材不足への有効な対策の1つといえます。
*総務省「令和3年 情報通信白書 」より
リスキリングを通じて従業員に学びの機会を提供することは、従業員エンゲージメントの向上につながる可能性があります。従業員のキャリア形成を企業が率先してサポートしていることが伝われば、従業員は自社への愛着や信頼をいっそう深めていくはずです。
従業員エンゲージメントが、生産性や業績と深く関わっていることはすでに知られています。リスキリングを通じてスキルの向上につながるだけでなく、従業員エンゲージメントの向上にも資することは、リスキリングに取り組むメリットといえるでしょう。
リスキリングの導入は、自律型人材を育成するきっかけにもなり得ます。新たなスキルを習得し、実務を通じてその効果を実感する従業員が増えるにつれて、スキル習得に対する肯定的な意識が醸成されていくでしょう。主体的に学び、自ら思考できる人材が増えていくことで、組織全体も活性化していくはずです。
リスキリングは一過性のものではなく、継続することが求められる取り組みです。企業がリスキリングを呼びかけることによって、継続的な学びのきっかけを作ることができるでしょう。リスキリング導入の先には、自律型人材の育成というより大きな目的があるのです。
すでに自社の業務に精通した人材を有効活用できることも、リスキリングに取り組むメリットといえます。今後必要とされるスキルを保有する人材を新たに雇うことも、人材不足を補うための対策としてはあり得る選択肢の1つでしょう。しかし、新規採用者は自社の社風をはじめ既存業務に関する過去の経緯を把握していません。長い目で見たとき、既存業務を熟知した人材のスキルアップを図るほうが理に適っています。
リスキリングを通じて業務に精通した人材のスキルアップを図り、活躍の場をさらに広げていくことは、持続可能な事業を築く上で重要な要素となるでしょう。
リスキリングは漠然と取り組んでも十分な効果は得られません。次に挙げる7つのポイントを押さえて、リスキリングの効果を高めていくことが大切です。
リスキリングによって誰にどのようなスキルを身につけてもらうべきか、求めるスキルと対象者を決めておくことが大切です。自社にとって将来的に必要となるスキルは何か、事業計画や経営方針とも照らし合わせて見極める必要があります。
スキルと対象者が的確に定められていることは、従業員にとっても重要なポイントです。せっかくスキルを習得しても、実務との関わりが薄く身につけたスキルを発揮できないとすれば、さらに学び続けようとする意欲を削いでしまうでしょう。求めるスキルと対象者を見極めることは、リスキリングに取り組む上で非常に重要なポイントです。
リスキリングを進める学習テーマや学習方法、実施期間を明確にしましょう。学習に必要なコンテンツを自社で用意すべきか、外部の研修プログラム等を活用すべきか、求められる質や量をもとに判断する必要があります。
そもそも学習プログラムの策定は、リスキリングの本来の目的ではありません。コンテンツの準備に期間を費やしてしまい、スタートが遅れることのないよう注意しましょう。必要に応じて外部のリソースを活用しながら、無理なく実施できる体制を整えていくことが大切です。
リスキリングの実施中に課題となりやすいのが、従業員のモチベーション管理です。新たなスキルを習得することに抵抗がない従業員と、そうでない従業員との間で温度差が生じる可能性があります。
学習プログラムを提示したまま放置することのないよう、定期的なフォローを入れることが重要です。 1on1や社員面談など、計画的なフォローを実施しましょう。従業員の自主性に委ねる部分と、企業側からフォローを入れる部分を使い分けていくことが求められます。とくにキャリア形成のように、企業側の関与が必要な事柄については、具体的な時期を決めてフォローを入れるようにしてください。
リスキリングはスキルアップのための手段のため、リスキリング自体が目的化しないよう注意しましょう。身につけた知識・スキルを実務で活用していくことが重要なポイントです。
学んだことが実務で活かされ、成果につながることが実感できれば、従業員がさらに自主的な学びに向かう確率が高まります。継続的な学びを促すためにも、リスキリングの内容と実務との関連性には十分に気を配りましょう。
リスキリングを導入することで、従業員の負担が増すことのないよう配慮しましょう。必要に応じて業務時間内でのプログラム受講も視野に入れつつ、担当業務を圧迫することのないよう気を配る必要があります。
従業員の負担感は、観察しているだけではわからないケースも少なくありません。リスキリングの実施前に従業員へのヒアリングを行い、学習プログラムへの参加が現実的に可能かどうか確認しておくことをおすすめします。
リスキリングが失敗する原因の1つに、従業員が義務的に受講しているケースが挙げられます。新たなスキルを習得する際には少なからず負荷やストレスがかかるため、従業員自身が納得し、自ら学びたいという意識で臨まなければ良い結果は望めないでしょう。
リスキリングの実施前に1on1を行うなどして、従業員自身の希望や今後のキャリアに関する展望を聞いておくのが得策です。従業員の自主性を尊重することによって、リスキリングを「自分事」として捉えやすくなるはずです。
リスキリングを進めるにあたって必要な学習コンテンツや指導者は、必ずしも社内だけでまかなう必要はありません。全てをイチからそろえていくよりも、すでに用意されている外部のリソースを活用するほうが効率的です。
ただし、外部の学習プログラムが自社にとってリスキリングの趣旨に合っているか、求めているスキルが身につくものかどうかは、事前によく確認しておきましょう。従業員の知識量やレベルに合った講座が用意されているか、実践まで含めてフォローが受けられるかといった点を十分にチェックした上で活用していくことが大切です。
さまざまな業界のリスキリング導入事例を紹介します。リスキリングを導入したきっかけや、具体的な進め方を知る手がかりとしてぜひ役立ててください。
アメリカの大手通信会社では、2008年に従業員のスキルの実態を調査したところ、近い将来陳腐化していく可能性の高いスキルしか持ち合わせていない従業員が約半数を占めることが判明しました。そこで、2013年に従業員10万人を対象にリスキリングを取り入れることを決定したのです。
リスキリングに参加した従業員は参加していない従業員よりも昇進率が高く、退職率も低いことがわかりました。従業員のスキルの実態に合わせてリスキリングを実施した結果、求める効果が得られた事例といえるでしょう。
ある国内メーカーではグループ会社との協力のもと、従業員のキャリア形成支援を目的とした教育プログラムを構築しました。DX推進を担う人材の育成や、DXリテラシー向上のための研修を実施。従業員ごとに適したコンテンツをAIが推奨する仕組みも導入し、個々の課題に合わせたリスキリングを実現しています。
リスキリングは1社のみで解決できる課題とは限りません。グループ企業や提携企業と協力して取り組むことで、スケールメリットを得られるケースもあるのです。
従業員のITリテラシー向上に取り組んだ金融機関の事例では、IT関連の国家資格取得を視野に入れたDX教育を実施しました。国家資格の取得という明確な目標が定められているため、従業員としても学習の成果が見えやすく、取り組んだ効果を実感しやすくなった事例といえます。
リスキリングで学んだことを実務で活かすのは重要なポイントですが、従業員にとってすぐに効果を実感できるとは限りません。この事例のように、資格取得などの目標を定めるのも1つの方法といえるでしょう。
リスキリングで取り組む課題としてDX推進が注目されがちですが、ある飲料メーカーではデジタルとビジネスをつなぎ、価値に変化する人材の育成に注力しました。データサイエンスの基礎やAI・機械学習の活用といったテーマで学びつつ、視点は常に「学びをどう活かすか」に据えられている点が特徴です。
スキルを身につけること自体が目的化することのないよう、当初から学ぶ目的やゴールを明示しておくことは、リスキリングを導入する際の大切なポイントといえます。従業員が学ぶ目的を見失わないためにも、参考にしたい事例の1つです。
ライター:株式会社ネオマーケティング